アローラ&カルサディーラ (Allora & Calzadilla) 《グレート・サイレンス》
愛知県美術館10F
(あいちトリエンナーレ2016: 8/11~10/23)
暗幕をくぐって室内に入ると、スクリーンが二つ見える。鳥の鳴き声と共に、どこかのジャングルの風景が映し出されていた。
ズームアップで、オウムの顔が大写しになる。
(*あいトリ公開資料)

画面が切り替わって、山の中に大きな皿の様な構造物-巨大なパラボラ・アンテナ-が、“ザーッ”というノイズ音と共に映し出された。
(*この様な映像が表示されていた: ぐぐる画像)


次は、コンピュータが描くようなグラフの画像。
(*似た様なグラフが表示されていた)

美しいとか、人目を引くインパクトのある画像とは言えないので、多くの人は、作品の意図を理解できずに引き返してしまう。しかし、3枚目のスクリーンには、興味深いメッセージが、映されていた。
スクリーンに大写しになったオウムは、プエルトリコで絶滅の危機に晒されている種のひとつだ。スクリーンに映し出されるメッセージは、この鳥が、見る者に対して語りかけているのだ。
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◇参考)そもそもオウムは非常に賢い種で、鳥類学者のアイリーン・M・ペパーバーグは、「オウムは、“思考して話す”」との説を主張していた。学会では、簡単に受け入れられなかったが、オウムの中でも取り分け賢い一羽の個体、“アレックス”と共に研究を進め、遂にその学説は認められる事になる。アレックスは、2007年に亡くなるのだが、ペパーバーグへの最後の言葉は、
「元気で、愛しているよ」(You be good. I love you.)
だった。
◇参考)パラボラアンテナ映像は、プエルトリコの山中に建設(1963)された世界最大(直径=305m)の電波望遠鏡、アレシボ天文台だ。
電波望遠鏡は、宇宙からの様々な電波を受信する。中でも、天球上の全方向からほぼ等方的に観測される「宇宙マイクロ波背景放射」への研究利用は、よく知られている。また、構造上、それは電波の受信だけでなく、送信も可能だ。1974年、アレシボ天文台は、「能動的な地球外知的生命体探査」として、M13星団に向けて、「アレシボ・メッセージ」(人や地球の事を伝える)を送信した。
◇参考)天文学者フランク・ドレイクは、地球外生物が、どれくらいいるかの方程式を考え出した。それによると、宇宙には我々以外の生命体が、無数に存在する事になる。それならば、何らかのコンタクト(通信につかう電波など)が、地球に届いても良さそうなものだが、未だ何も発見できていない。この現象を、「グレート・サイレンス(大いなる静寂)」と名付けている。
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発話により、他とのコミュニケーションを取ることができるのは、人間以外では、唯一の種であるオウム。プエルトリコでは、その種が絶滅の危機に瀕している。一方、銀河の遥か彼方にいるかもしれない地球外知的生命体とのコンタクトを目指し、巨大な電波望遠鏡を使ってメッセージを送る人類。コンタクトを取るべき相手は、直ぐそばにもいるよと、オウムは語りかける。
<<No.3 スクリーン>>・・・記憶とメモによる文字起し(半分ほど)
「ペパーバーグは、アレックスが色形を表す言葉だけでなく、その概念を理解していることを発見した。多くの科学者は、鳥が抽象的な概念を理解している事には懐疑的だった。人類は自分たちだけが、唯一特別なものだと思い込んでいるものだ」
「しかし、アレックスが、ただ言葉を理解しているのでなく、言っている事(内容)を理解している事を、ペパーバーグは科学者達に納得させたのだった」
「アレックスはまだ比較的若いうちに急死した。その前夜、彼は、ペパーバーグに言った。
『元気で、愛しているよ』 (You be good. I love you.) 」
「もし人類が人類以外の知性とつながりを求めるなら、これ以上の何を求めるのだろう」
「オウムの鳴き声は、コンタクト・コールという」
「1974年、天文学者は、アレシボ天文台を作って、宇宙にメッセージを送った。人類の知恵を示すためだ」
「野生のオウムは互いに名前を呼び掛け合う。一羽が(他のオウムの)コンタクトコールを真似るとその鳥が関心を示す」
「もし人類がアレシボ天文台のメッセージが、地球に送り返されるのを検知すれば、それは誰かが人類の関心を引こうとしているという事だ」
「オウムは声を学ぶ。私たちは聞いた音を新たに作る事ができる。この能力を持つ動物は殆どいない。人間もまた声を学ぶ。私たちはこの点で共通だ。つまり人類とオウムは、特別な関係にある。私たちはただ鳴き騒ぐのではない。我々は発音し、発話する。だからこそ人類はアレックスをあの様に(思考する者として)扱ったのだ」
「受話器は送信機たりえない、しかしアレシボ天文台は両方だ。それは聞くための耳であり、話すための口である」
「人類はオウムと共に何千年も生きてきたのに、私たちの知性に気が付いたのは、最近のことだ」
「彼らを非難しようとは思わない。私たちは人類をそう聡明とは思っていなかったから。私たちの全ての行動に意味を見出すのは難しい事だ。ともあれ、オウムは如何なる地球外生命体よりも人類に似ている。人類はもっと私たちを観察すればよい」
「なのになぜ彼らは地球外生命体の発見を、こうも期待するのだろう。彼らの出来る事は、何千光年か先に耳をそばだてる事くらいだ」
「我話すゆえに我あり」
「この事実を完全に理解しているのは、オウムや人類の様に、声を学ぶものだけである」
「ヒンドゥー教の神話によれば、世界はひとつの音、すなわちオーム(Om)と共に生み出された」
「アレシボ天文台が、星々の間に向けられても、聞こえてくるのはかすかなうなりだ。天文学者の言う『宇宙マイクロ波背景放射』である。140億年前に宇宙を生み出した爆発、ビッグバンの残留放射である」
「しかし、それを最初のオーム、かろうじて聞き取れる反響と考えることもできるだろう」
「アレシポは、他でもなくその声を聴いている」
「私達プエルトリコのオウムにも、私たちの神話がある。それは人類のものより単純だが、人類にも楽しんでもらえるだろう」
「私たちの神話は、私たちの種が絶えるや、失われてしまう。私たちが消える前に、人類が私たちの言葉を解読してくれるとは思えない。つまり私達の消滅は、単に一鳥類の消失ではない。私達の言語、儀式、伝統の消滅。それは私達の声が、静まる事なのだ」
「人類の活動のせいで私の種は、絶滅に瀕している。だが非難はしない。彼らに悪意があったわけではない。注意を欠いていただけだ」
「人類はとても美しい神話を生み出している。彼らの想像力は素晴らしい。だから彼らの夢はかくも壮大なのだ。アレシボ天文台を見よ。このようなものを作り出す種には、偉大なところがあるはずだ」
「私の種は、早晩消え去るだろう。栄える前に、グレート・サイレンスに加わっていく」
「しかし、消え去る前に人類にメッセージを送っておこう。アレシボ天文台によって彼らが、そのメッセージを聞き取ってくれるだろう事だけを願いつつ」
「メッセージはこうだ。
『元気で、愛しているよ』 (You be good. I love you.) 」