2014年4月26日(土)14:00 豊田市美術館で荒木経惟氏の個展「往生写集」の荒木氏本人によるトーク(作品説明)がありました。テレビで見ているのと同じ口調でのトークがとても面白く、作者自身の写真に対する考えもうかがえてとても良かった。今回は、そのトークの雰囲気を出来るだけそのまま伝えた方がよいと思い、録音したものを出来るだけそのまま文字起こしする事にしました。不鮮明な部分はカットしましたが、それでもかなり長くなってしまいました。
当日の午後2時からトーク開始で予定は30分。1時頃豊田市美術館に着いたら、既に、ちかげさんが来ていて「整理件配布があると思って、朝10時から来たけど、なかった」なんと熱心なファンだこと。集合場所のロビーにも人がぎっしり。放送局の取材班も複数いて、ごった返し。

※開始時は、上の写真の3~4倍の人(100人くらい)になっていた。
展示は、二つの章に分かれていて、1階は「Ⅰ章 顔・空景」、2階は「Ⅱ章 道」となっている。
◇午後2時、学芸員の方の説明「荒木氏はあまり体調良くないので、作品前の説明は30分、質問なし」だが、現れた荒木経惟氏ことアラーキー(こっちの方がぴったり)は、元気そうに大きな声で話始めた。
<1階「Ⅰ章 顔・空景」>
■「さっちんとマー坊」
荒木経惟)(展示は)美術館に全部やってもらった。私何にもやってない。(学芸員「荒木さんのデビュー作を展示してます」) いいね!

大概写真始めるときにね、写真撮りたいって言うのはね、自分自身を撮りたい。コレ近所の昔の下町の子で、少年達と出会って、その頃撮った。写真ていうのはずーっと追っかけるわけ、古いアパート、そこに通って撮った。で、彼があたし。このころリアリズムが流行っていた、映画で。どうしてもドキュメンタリー、あ、リアリズム。
ちょっと言っとくけど、写真てリアリズムでないと思う、ちゃんと映ってないから。化けてたり、人が写ってなかったりとか、・・・そう、事件が写ってないとリアリズムじゃないと思ってるけど、そうじゃない。人が写ってないほうがと言うわけでないけど、写真を撮るときじゃなくて自分がその時曖昧にシャッターを押して撮った写真を見たときにリアリズムを感じる。感じさせられる。


それが今回の写真展のズーッと、往生だからね、終わりだから。ズーっと二十歳から撮りだして、ま、かなりの齢だけどサ、それを見返して思ったことをいちばんこの今回の写真展でね、そのリアリズムとはこれだ!ていう、それから写真のリアリズムはこういう事だ!というより人生のリアリズムはこうだていうことをさ、悟りに近い境地に入ってきたんだ。だからこの往生、一回まわったら怖いかもしれないね。あんまりだからよく見ないように。

■銀座/スクラップブック/荒木経惟写真帖
※注:会場の写真は、トークの前に撮影(観客は写っていません)
荒木)いいね! いいじゃん。

こういうのはね、デジタルじゃ写んないよ。もうフィルムの時代は終わったんだ。写真の時代が終わったんじゃないんだよ。フィルムがなくなるから。フィルムって言うのはさ、何か自分の気持ちのね、鏡だったり窓だったり、薄いひとつの膜、皮膚の感じするけど、デジタルには皮膚がない。ないだろ!ね。(観客の人「ないです」) ないって、ハハハ! 後でみんなゆっくり見てね。 ・・・・ すごくいい。
この写真はね、あれなの丁度ね、あんまり言いたくないんだけどさ、運送会社じゃないけど、電通ってところに勤めてたんだ。つまんないから、広告つまんない。そんで、電通ってとこに入った時、おふくろがね、「お前、なんで運転出来ないのに運送会社に入ったの」って言われたね。その頃、トラックって「マル通」ってドンドン走っていたから、間違えられて、言われた事ある。 で、さっきいった様に、例えば、その時の事とか、何か浮かんでくるんだよ。言葉が出てくるとかさ。だから写真てそういうリアリズム、リアルなところをもって。だから見る時に、ドンドンどんとんリアルなその時が、だから写真て言うのは、形とか空間とか言うものでなくて、そういう時と付き合っている。時を撮る。だからその時の事が、ばっ-と甦る。それが写真の一番、今回確信を持ったね。ま、実を言うと最初から判っていたんだけどね、ハハハハ・・。

これはね、電通でね、広告やってもつまんないからね、「冷蔵庫撮れ」とかつまんない事言うから、サボって、銀座を(PM)2、3時頃ね、銀座におめかしして、女の人が出てくるんだ、それを撮ったの。で、その頃、電通(内)にゼロックスが出てきて、だから、新時代に付き合ってんだよな。みんながデジタル時代に付き合っているのと同じ様に。
ゼロックスって今もあるのかな?ファックスだね。これ会社の使って自分でドンドン苦心して作って(=Copyして)。で、70年だからこれは、だから70冊、ね、というそういうこと。で、あらためて遅れてきた、安保、自分だけの安保反対をやった。

いいね!
近所に月光荘って画材屋があって、そこでのスケッチブック、これがあったんですよ。歩いてんですよ、顔、太郎冠者次郎冠者、お面をつけてこれをかぶってあるいている。これいいね。

で、こういうのね、こういう写真ね、この子に何か自分の好きなお面作ってみたらと言って、作ってもらってそれを、その子がお面をしてもらっている。それを撮ったの。だから表現と言うのは、被写体がしている様にしたかったし、最初っからそうなんだよ。みてくれ、これコレ!
ね、撮る人手前だ撮られる人は・・・。ところが、表現しようと思わないでも表現しているんだよ、このては。それを複写するだけなんだよ。それをこの何十年もやってきたんだ。だから表現と言う言葉を使っちゃいけない。被写体が、表現者だ、ん。
だからその奴隷たちはね、よりいいカメラを持てばよりいい写真をとる。だから金の問題だね。ハハハ・・。コンタって言うのはカメラの名前、蛇腹の持ってる、6×6の。親父がくれたカメラなんだよ。だからその時の余計な事まで思い出させる要素があるね、写真て言うのは。だから写っている事だけでなくて・・・・・・・・・。
■地下鉄’72

荒木)これが一番いいね。(※電車の中の乗客の写真で・・)

これが、前に座ってね、大概その頃の人はね、寄るだろう、そうするときょろきょろ見たりするわけだ。一息つくと自分の持ってきた新聞も見飽きちゃうし、3駅目くらいで無我の境地に入る、個人に入るわけだ、自分自身に。その時に目の前でさ、撮っちゃうんだけど、今で言う隠し撮りだね。狡いんだけど、何でもないでしょ、向こうも、今言ったでしょ、「表現して」いるんだから、ただ複写するだけ。でも、スムーズに表現する人がいるんだ。真っ赤なマニキュア塗って鼻くそほじくる奥さんがいるわけ。そうするとね、撮り方って言うのはね、駅にね、がっがーんと止まる時その時に合わせてシャッターを切るとわかんない。停車の音に合わせるとか。でも、そうすっとね、昔からあれだけど、やな中年男って言うのが隣に座っているだろ。その時、「撮られてますよ」と教えちゃうわけ。そうすると私等は、引っ張られていっちゃうわけ。で、次の駅で、池袋の駅で降りて、交番まで連れて行かれて、ね。その時はまたこっちもね、テクニシャンだから、その間にフィルムを入れ替えてやんだよね。で、交番に行って、返って来たんだけど。ま、そのくらいのズルはやっていたんだけど。で、その時に、おまわりが、私の写真道を言った、「何で君は事件も起きないのに、写真を撮るんだ」正論を付いてきたね。お巡りはえらい。だから写真はホラ、とにかくね、あのだからと言って福島に行かないんじゃないけど。もうね、毎日が事件と言えば事件なんだよ、そっちの方が、日常が、その頃から、すごい人生の大事件だというのを感じてたわけよ。だから、簡単にシャッターを押してたんだね。は、火事だーって言えば、パーってさ。小さい頃はね、火事だーって言えばね、親父が火事好きだったから、「行くぞー、のぶ!」、のぶって言われてたんだよ。「のぶ、行くぞー!」って言うと、火事だね。それから、「屋根に上るぞー」って言うと、花火。で、花火を、屋根の上で親父と並んでさ、花火をスイカ食いながら見てたって言うそういう事もある。ま、いいや。
大体、この時代、‘70年頃かファッション写真(?)が流行ったりして、そんなもの写真じゃないとか言う気持ちの時あったんだよね。写真と言うのは、何か自分の、事件って言ったけど、何か大切な事件の時・・・。
■センチメンタルな旅
荒木)これは、結婚式の時で、「センチメンタルな旅」。新婚旅行の時の写真なんだよ。ただ撮った日(順)に並べているんだ。写真もね撮ったのを合成してね、がーって作家になりたがっている才能のないデザイナーって言うのいるだろ。ああゆうのに任せるととんでもない事になるから。任せないように。ただ撮った順に見ればいい、見せれば良い。



大体その頃は、やっぱりね他人の新婚旅行を写真集にしてくれる出版社なんて無いじゃない。でも、これは、この事が写真だ!って、思えてたのね、この時は。その時に、その頃、東京は、やっぱり豊田みたいな田舎でなくて、ちゃんとした(ハハハ)、似たようなもんだけどね、紀伊国屋って本屋があって、中二階くらいに、自分の下らないさ、「この国は燃えている、青い炎だ」なんて言う下らない詩を書いて売っている奴がいっぱいいた。そういう詩集を「置いて下さい」と言うと、置かせてくれたところが、スペースがあった。で、そこに、でどうだって自分で自費出版して、説明なんかも作って、持っていた。置かしてくれって。
そしたらね大将も優秀だけど、弟さんも、のん兵衛だけど感が良かったから、そしたら、これはすごくいいから何か書かないかって言って、で書かされたの。写真だけが一番の言葉だって言ってたんだけどさ、もっと伝わる。言葉の方がもっと伝わる。ほんとにね、いま思うけど、まー写真よりね言葉の方が伝わるな。(ハハハハ・・)
そうなんだよ、曖昧なんだよ写真て。こんなに好きな気持ちで君を撮ったのにって言っても、曖昧だろ!な、言葉とか文字とか。その時に書いたの。で、ちゃんとした事書こうとするとさ、ちょっと照れちゃうじゃない。だから左手で書いたんだよ。うん、ね。そうすっとね、よりいいね。

■冬の旅
※妻が入院・手術、その後亡くなる前後まで。
荒木)そうなんだよ、彼女死んでね、あ、入院してからずっと、まー生きているというと変だけどさ、私は旅だと思っているから、ね写真で。でね、この写真はね、入院しててこれから手術に。

ま、あ、余計な事言ったんだよね。子宮筋腫だとか何とか、「至急禁酒」すれば治るなんで冗談言ってたんだけど。丁度これからちょっとして手術に行く、この部屋から出た、後、そん時ね、今でも思っているんだけど、そん時に手術室まで一緒に付いて行ってあげればよかったな、つうのが一番悔やんでいるところだね。そんで彼女が出て行った後、ひとりで病室で、病室からの空をね、だから私の空って言うのはね、もしかしたらこのあたりから始まっているのかもしれない。こっからっていうしっかりした意味でないけど、なんかそんな様なね。だから、今、空撮っても、何かこうね、死の空なんだよね。

今回もなんとなく死神がそこいらにいそうな気がすんだ。ア!いた。太ってるあの死神。(←学芸員)ハハハ・・・
これ、だから入院してずっと通ってんの。これは名作だね、このあたりね。これ、こぶしの花の蕾の頃に、危篤と聞いて、病院の早道の階段が有るというのでそこを登って行く時、さすが写真家だから、余裕がある。ね、この辺に日付が入るぞとわかっている。やだね、写真家っていうのはね。

それで、この辺で、最後の握手だね。不思議なことにね、もうアウトかというのに、握ったらね握り返してきたけどね。もう、すぐその後、死んじゃったけどね。

<Caption>
「本当にお世話になっています。
あなたのやさしさが胸にしみわたるほどありがたくて、
それを支えにしてこれからの治療も
がんばっていけそうです。
でも、こういうことになって、
改めてあなたの素晴らしさを認識するなんて、
おかしいものですね。
人間はこういう状況にならないと
物事が見えてこないのかもしれないな、
などと思いました。
今は、あなたが顔を見せてくれるだけでとても嬉しい。
どうか体に気をつけてね、私もがんばりますから!
荒木陽子」
その時に、こぶしの、ね、蕾。蕾のこぶしが、丁度死んだときに開いた。咲いたんだよ。だからここでまたさ、このー、私が花をずっと撮り続けているのは、もしかしたらこれにも関わっているんではないかと、思ってる。こうやってまとめて見るとね。で、実際そうなんだよね。いま、やってっけど、いま撮ってっけどね、この後今年の終わり頃、東京で資生堂ギャラリーでやる、その花って言うのはやっぱりね、花が写っているとどうしてもね、パラダイスなんだけど、どうも死のにおいがする。あの世はね、モノクロームなんだよ。色はないよ。ね、お父さん、あ、行って来た?向こう行って返って来た人いますから。あの世は色がないと。(「そうですね」と答える観客。)ハハハハ
これ不思議だよね、チロちゃん、これ彼女の大きいいとこの骨、それがチロちゃんの顔に似てんだよね。だから一緒に撮ってんだよ、不思議だよね。


これチロちゃんの・・・。ね、そ。何でいい写真だか・・、いいよな。彼女が死んで、私が、思ったわけでないけど、あんまり外出ないで、ま、行ってる日もあるけど、出ないで部屋にいたら、パーッと外に、このバルコニーね、に飛び出て行って跳ねてくれたわけだよ。いいじゃんね。
■空撮

荒木)彼女がさ、西の空って、日本固有の・・・、どうしても西の空ね、こうなんだよ。

そんで、さっき資生堂ギャラリーで今年の終わり頃やるって言ったけど、この頃、西の空を撮っていたわけ。
西の空、あの世、でも今撮っているのは、世田谷の豪徳寺のとこで引っ越して、これ(※注:豪徳寺のマンション)壊したから、すぐ近くの梅ヶ丘ってとこに行って、そっから今撮ってんのがね、東の空。丁度、福島のあれとおんなじ時期に、うちのマンションも壊れて、二人、女房もチロも死んで、そっから去って、引っ越して今、梅ヶ丘っていうとこに住んでんだけど、そっからね、先ずね東の空を撮ってんだよ。要するに、復活だよね。ん、だから最初に太陽が上がってくる。だからね、だれか身近な愛しい人が、消えていくと生に向かう力がね、出てくるんだな。それは、向こうから付けてくれるわけだよ。空とかまわりとかね。だから、今は空だね。その東の空っていうのはね、資生堂ギャラリーでやるからね。ちゃんと此処にいる人は、来るからね。それ見て下さい。すごくねーやっぱりねー、ReBornとかこれから新しい世界が始まると言うのは、単純な空なんだね。そんな涙もんじゃなくてね、でもこう、血湧き・・ん、湧かせてくれる。それが続いてるんだよ。

<※Captionから>
「妻の一周忌に空の写真を飾ろうと考えた荒木が、
白黒の陰影だけでは「あまりにも寂しすぎる」と
考えて、「パッと血を通わせる」ために水彩を
施した」作品

■東京は、秋
荒木)そうそうこれもね。これはですね、いやー名作だらけだね。ハハハハ


これはね、さっき言った運送会社辞めて、それで退職金でペンタックスの6×7って言うの買って、三脚付けて、ま、アッジェだね。アッジェの街を歩き回って撮っていたやつ。
(※注:「アッジェする」とは・・・「都市の風景を撮る」の様な意味。写真家が用いる表現。フランス人の写真家、ユージェーヌ・アッジェ(1856-1927)が、(19世紀末から20世紀初頭)パリの街をくまなく歩き回り、都市の記録としての写真を撮った事に由来する。)
それが、これが良んだねーこれがね。ただ、ぱーんとね。特に今ちょっとね、ダブっちゃってさ、目がめっかちになったりとかさ、いろんな病が来ちゃってあれだけど、そうねー入院なんかして、ちょっと足がなるいんだけど。今、三脚に6×7・・付けて歩きたい気分がすごく出てるんだよ。そりゃあね、やっぱり東の空を撮ってっから。これね、ちゃんと要するにその、その時と対峙してるんだね。三脚立てて。その時の街の肖像を撮ってんだ、だから良いんだよ。
■裔像/富山の女性/男の顔面
荒木)いいね、ハハハ。実を言うと、私今日初めて見るから。わかるこれね。血が濃い人たちの肖像だね。

で、あれは、0歳から100歳までの撮ってるからね。(※注:富山の女性)ま、顔だね。ハハハハ。

これは、顔じゃありません「顔面」。男は「顔面」。ね、お面なんだよ、男は。一生。面つけてんだからな。
いーねえー。

<Caption>
「毎日毎日一生懸命働いて、日本を豊かなものにしたのに、
彼ら一人一人が持つドラマにスポットがあてられることはない。
だったら私が、私の写真で、彼らの物語を紡いてあげよう
ではないか。1月の厳寒の中、新宿副都心、丸の内の街頭に、
ライカとともに立った。」

これが良いんだな、一番。ちょーどだな。や、いいね。顔面が、いいよね。
■Aノ楽園/Aの愛人
荒木)こんなのあったかな。良すぎるね、ハハ。

お、こういうのも、内緒にしてたのに。これは、過去のね、時の女です。(客「多いですね」)

■愛のバルコニー(陽子)/Aノ楽園(チロ)
荒木)これはね、私がさっき言ったバルコニーね。豪徳寺のバルコニー。


ここでだから、ぱーっと。・・・まだここタイトルになってないの・・・
これがとんどんどんどん消えていくって言うのを新潟でやります。ね、続きはね。いいねー。チロちゃんも可愛かったんだなー。ねー、いいねー。これワニいーず(椅子?)。
<2階「Ⅱ 道」>
■道路
荒木)それで、やーこれはね、丁度あの辺りからだとね・・これはいいね。

これがさっき話した、引っ越して・・屋上から撮った、屋上から空撮るでしょ、東の空。その下。だからこういうの3年撮ってんだよ。もうほら、3.11から引っ越したの。でね、来る日も来る日も、あのーま、さっきねあたしね、事件があるわけよ。まーね、こっちに梅ヶ丘って駅があんだよ。それをね、乗り損なったら遅刻するんだって、真っ赤なハイヒールのミスカートを駆けていく音、音までずっととっちゃって。そういう事がある。




それはね、ずーっと見てると、ちょっとな、悟り開いちゃうからね。あまりね、よく見ない、サラッと。人生はこんなもんだとわかっちゃうから、あんまりはっきり見ないでいい。ハハハ。
・・・・・ちょっと上から見たいな、行っていいかないいよな。(階段踊り場で)おー、これはすごい。なかなかのもんだね。あるなー、みんな飽きちゃったよな。ハハハ。ありすぎだなー。ありすぎで、もう終わりだな。

■チロ愛死
荒木)あーチロちゃんの、いいねー。こりゃね、これはいいなー。


まーちょっとさ、ガッカリするけどさ全部やればさ。これが丁度死んだ時ね。

そんで、その形で、出てったね。これほれ。でね、そういうのこー、ちょっとさ、やだけどね。でも、それを逆転するようにね、この辺りにね、これは病気していて、倒れていた。腎臓痛めて、倒れちゃって寝てんだけど、「立て!」って言って立たした。そしたら立ってくれた。

そんで見つめあって、ほら、肖像。これ見てこれ。礼してるだろ、だからそういう事も、そういう写真撮ってあれば、こういう写真が出てきてもね、ん、慰めじゃないけど、良んだよ。やっぱ何んかのね、二人の関係っつうのか、すごく濃厚で強かったって言う感じがちゃんと見てるしなー。まだまだだね、死にそうだからって、彼女の写真集置いて撮ったとかさ。

まあ、まだ境地に達してないな。そんなものいらん。ただ、こう目つぶるっつのはさあ、寝てる時より死んだとき目つぶった時、一番きれいだね。寝顔より死に顔の方が、閉じた目はきれいだ。ま、猫だったからな。なんかこう、往生風な事言い出すから、もやめよう。ね。写真、こういうのわかんない奴いるだろ。あ、わかるかチロちゃん見れば。そこでいつもおしっこしてたんだよ。ね、こうゆうの最初見るとさ、何か分かんないじゃない。でもね見てるうちに気づくから。



だって、ね、お風呂場で、ここで水飲んでたと。それから向こうのね、これはね、こん中で選べったら私はこの4点選んだけど。この風呂場で、上って来るのを待っててくれる。ドア開けて、ね。いつもはね、こっちがね寝室、ベッドルーム。いつでも来れる様にドア開けて寝てるわけ。そうすと朝、起こしに来てくれる。こっからニャーって顔だして。それが毎日だった。それが今は無い。そういう写真なんだよ。



あったものが無くなるというのは、すごく悲しい。・・だからそれさあ、あそこにおしっこして・・振り向いてやな顔したとか、そういう事思い出すんだよ。・・なの写真に写ってんかもしれない。この4点はね、そういうあれがある。なんかこうやって見てると出てきそうだね。ここにねあの顔があったらいいだろう。それが毎朝起こしに来るんだから。それがいま・・(観客「今別の動物とか」)、いない。案外ね、悲しい写真だからね。
■母子像
荒木)まだ、あんの!・・・・やっぱり女子高生がすごいね。豊田でもこんなのやろうかな。これね熊本の女性ですよね。熊本行った時に、こういうの撮りたいなって言ったらね、女性は、女はすごい。ぱっぱっぱって脱いじゃって、子供抱いて、その脇で脱いだ着物を亭主が持って、座って隣でいるんだよ。ハハハハ。やーいーよ。

■東京夏物語
荒木)今でもね、車に乗って、車の窓から撮ってんの。今でもやってんだけど2005年になって。いーねこれは!やっぱり。


(窓の外の景色を見て)や、いーなー。じゃちょっと筆を、ここに富士山描くから、マジックを。ハハハハ。車の窓からね、すごくいいのよ。ちゃーんと位置がちょっとこっちだし。ちょーどいいの。んー、この窓いいね。

■遺作 空2
荒木)これねー、もー遺作なんだよね。5年前に癌になって、よしそんじゃ遺作作っておこうと思って、やったやつだね。それから、5年生き残ったから。しょうがないね往生で。往生しないからね、まだね。100までは無理だね。いいじゃん!

■センチメンタルな京都の夜
荒木)へー、いいね。・・・・・・・・・・・・・ 実はね彼女とね結婚後かな、京都旅行したの。夜撮ったの。

で、このフィルム表現とか何とかじゃなくてね、これネガでね。フィルムって言うのはさ、ネガからプリントするじゃない。ネガとポジで。実はネガもポジも、そうなんだ。一過程でないんだ。そこで含まれているんだ、いろんな事が。そういう様な感じだからポジですよ。ネガ表現とかさ、そういう様なね、テクニックを使ったわけでない。いいね。どこ行っても芸者の人撮っちゃうんだなー。こういう絵が好きなんだよねー。ハハハハ。


■8月
荒木)うん、いい。

(※注:「こんなに歩いたの久しぶり」と言って腰かけるアラーキー)

でね、これ何で、こんなのやってくれるって言うんで、何でこれ出てきたかって言うとね、この頃に・・・写真映像とかね、映像展かな、今ハラキネマって言ってんだけど、それの前身みたいな、その映画みたいに見せる方法のフィルムを作ったんだよね。上映する、それが出てきた。だからこれからドンドンそういうゴミが出てくるから、あーもう一回くらいやんないと終わんないな。んー、いいなー、面白いねー。・・その頃ほら、年代が出てるね。ちぃっちゃ、こういう様なテレビで、ホテルのテレビ、沖縄の復帰の時だから。ね。そんなテレビ。悪い癖でさ、若いとさ、正義っぽい事入れようかなとか思うんだよ。な、だろ!ハハハハ。
それだけしかやってないんだ。
あーこんなに歩いたから、もうまたやんなくちゃいけない。でね、そのやっぱ悪い癖っていうか、相手が表現してるとか言ってるくせに、こういう写真撮っちゃう。これはどうやってとったかと言うと、カメラのレンズをたたいて壊した。ぐちゃぐちゃになったそのレンズで撮った。だから途中で福島の原発とかなんとか、何で福島行かない・・・、行かないし、災害地何のかんの言ってっけど、自分が原発とか津波になっちゃう様な気分、なっちゃう。だからレンズで壊して被災地に、先にやった気が・・。東京の街を、津波に、原発がバーッと。それはね、レンズをね、壊すとさ、金と才能余っちゃってっからさ・・・、ハハハハ。


いいね。いいじゃん。・・・・こんな事やってっから片目潰しちゃうんだ。いまね、あたしのね、こうゆうくらいね、右目が、血管が詰まっちゃって。

■三千空
※ビデオインスタレーション(空の写真が次々と映し出される)



荒木)今が大事だけど、今の時期に、絶対に空、これ連続的にやってんだけど、入りたくなるから。中、ずーっと見てるとほら。だから気をつけなくちゃいけない。この中に入りたくなる。ばーっと。誰か入る?裸になって。綺麗だぞー。着てるとだめだね。ハハハハ。裸になると良い。ほらっ。あのふわーって空に入りたくなって、撮りたくなったりするじゃん。これずーっといるとね。これ30分くらいやっているんじゃやないの。これ、いー。(学芸員「6時間半です」)6時間半。ちょっと長いね。(観客:ハハハハ)いーよね。6時間半か。
◆ツアー終了
荒木)(暗い映像室から出て)やっぱり何にも写ってない光がいいね。ハハハハ。
すごいね、今までで、一番大きいかな。(学芸員「これで終わります、拍手でお送り下さい」)
や、久しぶりに見せられたから、自分のをね、いいよ。

◇随分と長い記事になってしまった。最初、学芸員は、30分の説明と言っていたが、結局50分になった。アラーキー様、ご苦労様でした。
「往生写集」展を見た帰り、他のお客様が「なんだかよくわからない・・・」と呟きながら帰って行くのを見て、このくらいの情報提供が必要なんだろうな、と思った次第。
振り返って、豊田市美術館の入り口を見ると、何だか巨大な墓標の様に感じた。