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PARASOPHOA2015 笠原 恵実子

笠原 恵実子 《K1001K》/《TSR14》
(PARASOPHOA京都国際現代芸術際2015) 2015.3/7-5/10

 《K1001K》
 床の中央部に、一部が欠けた白く丸い陶器が、整然と並べられていた。横に20個、縦に50個程の並びで、合計1000個程。球体の上面に小さな注ぎ口を付けた様な野球ボール大のもので、1/3~2/3程が欠落している。球体の外側表面は素焼のままで、内側は釉薬が塗られ滑らかな面に仕上がっている。入り口の右手には、半分位が欠けた丸い陶器の写真資料が、積み上げられていた。タイトルは、「K1001K(←左右逆のK)」となっている。白く丸い陶器を眺めていたら、昔、父から聞いた「瀬戸物の手榴弾」の話を思い出した。
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 埼玉県川越市には、戦時中、火薬類填薬(火薬を容器に詰める)工場があって、陶器製の手榴弾を作っていたそうだ。全国の窯業場から川越市へと大量の陶器が集められ、ここで火薬を詰め、手榴弾として戦地へ送り出していた。終戦後、陶器の大量在庫は、全て川に投棄された。今でも、川(びん沼川)の水量が減ると、川辺を陶器の破片が埋め尽くす異様な光景が現われるという。
 <川辺に現れた陶器破片>(図録より)
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 これらの陶器の破片を、笠原は、拾い上げ磨き上げて写真に撮り、資料とした。
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床に並べられた白い陶器は、捨てられた破片そのものではない。河原で拾ったものと対を成し、欠落した部分を補って、ひとつの手榴弾の形になる様に、笠原が焼き上げたものだ。
タイトルにある二つの「K」は、From川越市to京都市の意味か。「1001」の数字は、戦時中、出征兵士に送られた「千人針」の様に、銃後の人々を表す数字として「1000」が使用された。それに「+1」して、この作品を特徴づけるものとしている。床に並べられた白い陶器は、1001個なのだろう。兵隊さんが整列している所(写真)からインスピレーションを得たとしている。
兵隊列_convert_20150607225442
  (図録から)
 坊主頭の兵隊さんの整列を思ったのか。釉薬が塗られていない外側表面の鈍い白さは、異国の地で果てた方々の遺骨の肌触りを連想する。
 川辺から拾った陶器の破片そのものでなく、失われた部分を再現し、それを並べた。70年を経て、日常から消えかかろうとした戦争の記憶を、笠原は、白い陶器に重ねたのだろうか。私達に対し、そこから何を読取るのかと問いかけているようだ。

 《TSR14》
 部屋の左手の展示ケースには、潰れて平たくなった丸い金属板が、300個以上も並べられていた。赤銅色から銅のコインを潰したものと想像が付く。
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 壁には、線路の交叉する部分を写した写真が掛っている。タイトルは、「TSR14」。「Trans-Siberian Railway(シベリア鉄道)2014」だ。笠原は、シベリアまで行って、コインを線路の上に置き、列車に轢かせて潰したのだと言う。
線路_convert_20150607225420
  (図録から)
 植民地がまだ世界に広がっていた頃、その支配には、大量の物資の輸送手段を必要とした。それ故、鉄道は、植民地維持の最重要インフラとされていた。長大な大陸鉄道は、強大な経済力を背景に、経済的に弱い地へと拡張していったが、運んだのは物資だけではなかった。膨大な量の列強の文化が、経済的に弱い地へと越境していった。並べられた潰れたコインは、踏み潰された経済と文化を嘆く被支配地の人々かもしれない。

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 PARASOPHIAでは、一般に「ガイドツアー」と言われているものをシェルパツアーと呼んでいた。これに参加して、シェルパのムトーさんの説明を聞いた。
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 今回の展示は、作品のタイトルはあってもキャプションが無かった。「キャプションをじっくり読んで、作品はさっと見るだけ」問題への対策として、「作品をじっくり見てもらう」為にそうしたのだと、何かの説明に書いてあった。
 <※こんな感じ>
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 その趣旨は良いのだが、笠原さんの作品の様な場合、どうなのだろう。多くのお客様は、作品の意味が分からないだけでなく、そもそも展示しているものが何なのか、判らないまま通り過ぎてしまうようだ。私も、ムトーさんの説明が無ければ、「陶器の手榴弾みたいだけど、まさかね」と、通り過ぎるところだった。現代アート作品の展示における悩ましい課題だ。
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