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歌麿「深川の雪」

6月14日、箱根の岡田美術館で、喜多川歌麿の《深川の雪》を見てきた。
なんと艶やかな浮世絵でしょうか。その大きさ(縦199cm×横341cm)も掛軸画としては目を見張るばかりですが、何と言っても素晴らしいのは、色づかいです。200年前の日本に、しかも公家や武家ではなく町人の世界に、この様な美しくも華麗な絵が存在したとは、まったく胸を打たれる思いです。
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<図録より>
《深川の雪》については、NHK等の特番でご覧になった方も多いと思いますが、やはり実際に見るべきでしょうね。作品の持つ華やかさは、実物でなければ、なかなか感じられないものです。
場所は、江戸・深川の大きな料亭の二階座敷。そこに、芸者や下働きの女性等(ひとりの男の子を含む)総勢27名が、雪の積もった中庭を取り巻く二階の廊下と座敷に、思いおもいの仕草で描かれています。何度も言いますが、芸者さん達の艶やかな姿はいいですね。上に羽織る長袖は、わりと地味な感じの色ですが、その間から見える小袖(と言うのでしょうか)の赤の鮮やかな事。
また面白いのは、下働きの女性達。その姿が、当時の生活様式や風俗を伝えてくれます。手前中央の女中さんが持っている料理は、皿の上にヒラメの煮物、小鉢の中に百合根インゲンなどが見えます。右奥の廊下には、大きな風呂敷包みを背負った女中さんが見えます。これは、「通い夜具(かよいやぐ)」と言うそうです。深川は、芸者の街で、吉原の様な遊郭とは違いますが、そこはそれ男女の中ですから、粋な殿方であれば、芸者さんも心を許して枕を共にする、なんて事もあったのでしょうね。(よい娘はまねをしない様に)
ところで、芸者さん達の唇に注目です。(添付の画像で判別出来るか?)
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<図録より>
下唇が、みな緑色ですね。これは、「笹紅(ささべに)」と言って、当時、爆発的に流行した口紅なのだそうです。ですが、紅花から作られるこの紅は、非常に高価で「金(金箔)」と同じと言われています。
猪口の内側に塗られた紅、それを水を含めた筆ですくい、唇に塗りかさねる程に、赤が緑に変わると申します。芸者さん達は、その様な手間もお金もかかる紅を競って使ったのですね。
20140131145337[1]

当時は、倹約令が発行されていた時ですから、この様な贅沢を広める様な事などもっての外だったのでしょうが、歌麿は返ってそれに逆らったのでしょうね。
絵の構図を見て見ましょう。
IMG_4976_convert_20140622205619.jpg
左下の子供を抱いた母親から、仕草や視線をたどって行くと、廊下を反時計まわりにぐるりと回ります。最後は、左上のふっくら顔の女中さんの右手指から、最初のところに戻ります。また、画面は、二階座敷を描いたものですが、手前廊下と中庭を挟んだ奥の廊下では、高さが違う様にも思えます。しかし、手前から廊下をたどると確かに同じ平面で奥の廊下にたどり着きます。西洋の遠近法から言えば、ちょっとおかしい(ずれている)のでは、と思われるかもしれません。多分、歌麿は、遠近法よりも人物配置(よく見える)を優先したのでしょうね。奥座敷を描く為には邪魔な中庭の松の木など、途中ですっぱりと切り落としています。芸者衆を美しく描き見せる事がこの絵の命ですから。歌麿始め当時の浮世絵師たちは、この様な大胆な構図もやってのけるのですね。

ご存知に様に、《深川の雪》は、《品川の月》《吉原の花》(どちらもアメリカ在住)と合わせて3部作になっています。その中でも最後に描かれて最大のものであるこの作品を見逃す手はないですね。
◇岡田美術館
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問題は、美術館が、箱根の山の中にある事。電車で行くにも駅から遠いし、車で(名古屋から)行くにもかなりの距離。私は、結局、車で行きましたが、1人で往復600kmは結構大変でした。
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